INTERVIEW#03
オール讀物編集部嶋田 美紀
誰かにとってかけがえのない一冊を 誰かにとってかけがえのない一冊を

私の入社理由

どこまでも掴めない会社

新しいことを知りながら働きたい」という思いから、高校生の頃から記者を目指していました。新聞社を中心に就活をしていたものの、どこかで編集者へのあこがれを無視できず、思い切って出版社も受験することに。本は好きでしたが背水の陣と思っていたので、勢いに身を任せて面接を受けていました。その分、入社を決める際に自分なりに覚悟が必要だったのですが、「ああすればよかったかな」という後悔が頭をよぎったことは今までありません。

就活を通して体感した文春の良さは、どこまでも掴めない会社に見えたところです。そもそも、会社説明会の雰囲気が予想と全く違っていて、いい意味で、出だしから裏切られたような感覚がありました。面接を受ける度に印象が変わり、用意した「会社への理解」が薄れていくような気持ちさえする中で、かえって「この会社、素敵かも」と思うように。入社した今も、どんな組織なのかはわからないままで、毎日わくわくしています。

今の仕事について

現在までの経歴

  1. 2022.03月 入社
  2. 2022.04月 オール讀物編集部

今の仕事について

メインの仕事は、作家の方々にお会いして原稿を頂くことです。赤川次郎さん、林真理子さん、阿部智里さん(弊社では「先生」と呼ばないと教わります)――ずっと本棚の向こう側だった小説家が「実在するんだ…」というのが最初の衝撃でした。雑誌ですので、さまざまな特集記事の企画や取材も仕事です。SNSの更新、配信イベントの設営、Podcast用の音声編集など、紙から離れた仕事も。オール讀物新人賞応募作の下読みや、文学賞の贈呈式のお手伝いなどもしています。

現在の仕事のやりがい

文藝編集に携わることになるとは、全くの想定外でした。「今後40年の社員生活であり得ないだろう」と思っていたほどで、新人研修最終日に配属を言い渡されたとき、「小説に詳しくないのに、明日から大丈夫かしら……」と不安に襲われました。

実際に働きはじめると、やはり悩むこともたくさんありました。今も周囲にいる百戦錬磨の上司たちに助けられながら、とにかく目の前にある原稿と向き合う日々です。難しいことですが「ゲラにはしっかり指摘や感想を書くべき」という先輩の声に励まされ、素直に気づいたことをお伝えするようにしています。

一方、新たな世界に触れられる毎日はとても刺激的で、「もっとたくさん知りたい」という気持ちが強くなります。知らなかった分野にどんどん足を踏み入れていて、日々冒険するような気持ちです。そして雑誌が完成して見本が配られる際はなぜか緊張し、「自分がかかわった雑誌が読まれるのか……」とひっそりと感慨深くもなっています。

これからの目標や夢

これが私の考えていたことだった!」と、自分が体験したことでもないのに、読書後に感じられる一冊をなるべく多くの人と共有したいです。入社前は「ノンフィクションで」と考えていましたが、今はジャンルを問わず、誰かが自分を再認識するきっかけをつくりたいと思っています。

出版社に入って改めて、本一冊を読むことには、楽ではないからこその面白さがあると実感しています。夜な夜なECサイトやSNSを徘徊するのも楽しいですが、時間がかかり頭も使う読書をしたことで得られる達成感、世界の捉え方が少し変わったような感覚は特別なものです。

古き良き……ではなくて、楽しみを感じるひとつの手段として、純粋に「読めて良かったな」と思ってもらえる本や雑誌を届けたいです。

そして、噂で耳にする「いい時代」が、再到来するきっかけも作りたい……という大きな願望も腹の底に隠し持っています。誰かにとってかけがえのない一冊を世に出しながら、出版界全体が盛り上がる契機を生みたいです。

「オール讀物」の読者層を広げるために、どんな取り組みをしていますか?

意外に思われるかもしれませんが、SNSとWEB記事にかなり力を注いでいる編集部です。X(旧Twitter)の更新は各々が自由に担っていて、宣伝用動画を自前で作って投稿したり、配信イベントも積極的に行っています。また高校生直木賞も担当する部署なので、若い読者と交流する機会もあります。

そして最近、Podcastを始めました!編集会議でぽっと話に上がってから、週3回の更新が途切れることなく続いています。編集部のとてつもない機動力と実行力を目の当たりにした出来事でした。新たな挑戦にひるまない土壌を強く感じました。

現在は他部署と共同で運営していて、日々「どうしたら本への導線を引けるか」を模索しています。「聞いてもらうために、音にもこだわらなければ」と、よりよい録音環境を追い求め、機材を抱えて試行錯誤中です。

進化し続ける「本の話ポッドキャスト」、ぜひぜひ聴いてみてください。

目次絵コンテストは
どうやってスタート
したのですか?

オール讀物」の目次は観音開きといって、左右に大きく広がる今では珍しくなった形式を採用しています。その上下を彩る目次絵を、毎号の特集に合わせてイラストレーターさんに依頼するのですが、ある日、編集長から「noteで目次絵を募集してみようか」と言われスタートした企画が、「#オール讀物目次絵コンテスト」でした。イラストスクールや美大にお知らせしたり、過去の目次絵を振り返るnote記事を更新したり。初めはなかなか伸びなかったのですが、締切直前に続々と投稿され、とても嬉しかったです。

コンテストで採用されたイラストは、2022年11月号、12月号の目次絵として掲載させていただきました。これまで「オール讀物」とは接点のなかったクリエイターのみなさんと、noteを通してつながることのできた貴重な機会となりました。第2回も開催し、これからも続けていけたらという話になっています。

1週間の仕事の時間配分

オフの1日

仕事は原稿のやりとりが中心ですが、取材や会食も。先日初めて取材のため出張に行きました。退社後、映画やライブに行く趣味の時間、色んな人に会う機会も確保できています。

文藝春秋を一言で
表現するなら

独立独歩

忘れられない一冊

星野博美『転がる香港に苔は生えない』

コロナに大学生活を翻弄された時に読んで、「自分は確かにがんばった」という気持ちを取り戻しました。たくましい若さと街の描写に熱く感動しながら、自分は社会をどう捉えるかと考えさせられる、大好きな一冊です。

入社を考える方へのメッセージ

「オール讀物」と
“私の好奇心”。

最後に重大な告白をすると、実は、配属されるまで「オール讀物」を読んだことがありませんでした。初めて読んだ時に感じたのが、ジャンルに縛られない迫力です。垣根を越え、あらゆる読み物をこれほど端正に盛り込んだ雑誌がほぼ毎月発売されているとは……という衝撃を受けたことが、忘れられません。好きなものを自由に選んで楽しめる時代に育った私としては、その圧倒的なエンタメ力、とてつもないパワーに驚きました。

自分の可能性を発見し鍛え始めるのは、いつでも新たな出会いと好奇心からだと思います。好きな内容だけ選び取れる時代だからこそ、新しい文脈で「オール讀物」が受け入れられることもあるのではないかと想像します。「小説誌はあまり読まないな」と思っている方が手に取れば、「こんな読書体験が待っていたのか!」と仰天するような体験ができること、間違いなしです。クラシックに見える雑誌ですが、秘めたる新しい可能性を、幅広く届けていきたいと思っています。