INTERVIEW#06
第二文藝部内藤 淳
「脳天を突き抜けるほど素晴らしい」文藝編集者の史上の瞬間とは 「脳天を突き抜けるほど素晴らしい」文藝編集者の史上の瞬間とは

私の入社理由

芥川賞・直木賞に関わりたかった

半沢直樹」シリーズを読んで銀行員に憧れたり、『クローズド・ノート』を読んで教員に憧れたり、とにかく気が多く、飽きっぽい学生でした。いよいよ就活が始まり、本当に自分がやりたいもの、長く好きでいられるものは何か……と考えたとき、小さい頃からずっと変わらず「本」が好きだったと気づき、出版社を受けることに。
 数ある出版社のなかでも「文藝春秋」が良いと思ったのは、芥川賞・直木賞を主催しているからです。小説は一人で読んでも面白いものですが、批評を通して他者の目線に触れると、自分では思いもしなかった魅力に気付くことが多々あります。文学賞は、アカデミックな空間の外に大きく開かれた批評の場であり、出版界全体を盛り上げる役割を果たしている。そこに関わることに強い興味を持っていました。
 そして、単純にお祭り騒ぎが好きなので、年2回の文学の祭典「芥川賞・直木賞」にテンションが上がる、というのも正直な気持ちです!

今の仕事について

現在までの経歴

  1. 2018.03月 入社
  2. 2018.04月 文春オンライン編集部
  3. 2018.07月 週刊文春編集部
  4. 2023.07月 第二文藝部

今の仕事について

エンターテインメント小説の単行本を作っています。ミステリ、ファンタジー、歴史もの、恋愛小説、お仕事小説……担当する作家さん、作品は多岐にわたります。「オール讀物」や「週刊文春」、月刊「文藝春秋」などで連載した作品を単行本化したり、書き下ろしをお願いすることも。

現在の仕事のやりがい

いいものをもらった!と思えたときは、アドレナリンがどばどば出ているのを感じます。
 担当した作品で、依頼した装画が〆切を1ヶ月過ぎても届かず、やきもきしたことがありました。今日もらえないといよいよ間に合わない、なんでこの人に依頼したんだろう……と考えながら、もらえるまで帰らない覚悟で家に突撃。玄関先に現れたイラストレーターさんに装画ラフを見せられた瞬間、それまでの憂いがすべて吹き飛びました。
 脳天を突き抜けるほど素晴らしい装画で、完成イラストを待つまでの2時間、手が震えて仕方なく、「武者震いとはこのことか!」と感動したことを覚えています。待った時間もすべて意味があったんだなあと、〆切遅れをとがめる気にもなりませんでした。大変なことは多いけど、自分が心から「良い」と思えるものを見せられた瞬間の喜びは、なにものにも代えがたいです。

これからの目標や夢

書店に長蛇の列ができるような、大ヒット作を生み出したいです。
 テレビで見た、村上春樹さんの新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』発売日の書店中継が忘れられません。本が好きな人たちが書店に押し寄せ、みんながそれを買っていく……。そんな光景を、自分が担当する作品で見たいですね。

配属後に気付いた、
文藝編集の「想像と違ったところ」は?

仕事の大半が「地味な作業」であることです(笑)。
 異動して最初に先輩に言われたのは、「本作りは愚直に」ということ。原稿の隅々まで目を通すのはもちろん、文字の大きさやゲラの組み方、装幀や奥付など、すべて計算して、地道に仕事しています。小さな作業を一つ一つ積み重ねた先にしか、いい本作りはないのだということを痛感する日々です。
 また、関わる人が多いのにも驚きました。自分一人でできることは限られていて、プロモーション部や営業局、資材製作部、法務部、映像メディア部、と社内だけでも多くの人が携わって一つの作品が出来ています。関わる人すべての調整をしながら、作家さん、社の双方にとって最大限いい形で着地させるのは大変ですが、やりがいのあることです。

どういう人が
文藝編集に向いていると思いますか?

わたしも分からなかったので、諸先輩方に聞いてみました。文藝編集者は多種多様ですし、だからこそ幅のある作品が生み出せるのだと思うので、正解はありません。しかしそんなことを言ってもしょうがないので、なるほど……と思った先輩の話をひとつ。
人格ではなく、才能に向き合える人」であることが重要、だそうです。
いい人だから仕事をする」「一緒にいて楽しいから原稿を頼む」のではなく、その人が何を生みだしているのか、それによって読者が何を感じるのか――その人が持っているものに向き合い、それが良いと思ったら全力でサポートする。もしも人間としては合わなくても、そんなことを気にせず仕事ができる人であること。
 作品の方を向いて仕事をする、ということなのかなと思います。いまのところ実践できているかは分かりませんが、そうなれるように頑張ります。

1週間の仕事の時間配分

オフの1日

お笑いライブを見たり、映画を観たり、いい景色を見に行ったり。2年前から茶道を習い始めたので、お茶を飲みに行くことも多いです。吉祥寺にある中国茶が飲めるカフェがお気に入りです。

文藝春秋を一言で
表現するなら

ぴっちり、
ゆるゆる 

忘れられない一冊

穂村弘『にょっ記』

SNSで見かけて、素敵!と思った一文。引用元が分からなかったのですが、社の資料室で「別冊文藝春秋」のバックナンバーを読んでいる時に再会し、運命を感じました。「架空の日記」(テーマも最高)を綴る穂村さんの言葉は、一つ一つが輝いています。

入社を考える方へのメッセージ

「第二文藝部」と
“私の好奇心”。

わたしは入社以来5年間「週刊文春」編集部にいました。辛いことも多々ある一方で、全く興味のなかったジャンルの取材を振られ、勉強するうちに好きになったものも多くあります。文藝の部署に異動して作家さんと話していて、週刊時代のエピソードを笑ってもらえたり、取材力がふいに発揮できると、「やってよかった」とじんわり感じます。
 周囲の先輩を見ていても、「Number」時代に培ったノウハウでプロモーション案を考えたり、「CREA」時代の鉄板手土産を駆使して取材準備したり、大学院時代に習得した古文書を読む能力を使っている人がいたりと、それぞれの知見を活かして仕事しています。
 ずっと一つの部署にいるのではなく、社内で循環があるからこそできる仕事もありますし、一途に何かをやり続けなくても良い環境は飽きっぽい人にはありがたいものです。与えられたものを好きになる力がある人には、とても向いている職場だと思います。