「各社から依頼が殺到してるけど、ほとんど断ってるんだ。ぼくは、『ウェブ進化論』のような本は五年に一度くらいしか書けないから、相当先まで難しいと思うよ」
梅田さんに最初にコンタクトをとった時の返信メールはとってもクールだった。そして、きっぱりとこう書いてもいた。「本の粗製濫造だけは絶対にしたくない。ぼくは世の中にたいして本当に意味のあるものを作りたいんだ」と。
どうやらよほど魅力的な企画でないと執筆してもらえないようだった。
ぼくは、『ウェブ進化論』がもつ言葉の強度はいったい何なのだろうと、考え続けていた。単にウェブをめぐる時代の潮流をわかりやすく書いた本ではない、異次元の熱とスケール感をもった知見が独特の言葉遣いで書かれている――その思考の核を何が醸成したのか、そこを一番知りたいと思った。
だから、最初のコンタクトから三ヶ月後、ようやく会うことがかなった来日の際、ぼくと上司の質問はそこに集中した。
すると会話の中で、梅田さんの思考の核心を練り上げた驚くべき方法が明らかになったのである。
「パラノイアだけが生き残る」――アンディ・グローブ
「シリコンバレーの存在理由は『世界を変える』ことだ」 |
―― スティーブ・ジョブズ |
こうしたビジョナリーたちの言葉と大量に出会って学んだことが人生の転機となってきたと語り始めた。
梅田さんが二十代の頃からずっと続けてきた勉強法とはこうだ。毎朝四時、五時に起きては数時間、シリコンバレーを牽引するビジョナリーたちの著作・雑誌記事・ブログ等を大量に読み込む。その中でもとくにすぐれた切れのあるフレーズを抽出し、その言葉の本質的意味を深く考える。
全く新しい論理で行動するウェブ巨人たちの名言を深く考察することで、次なる技術革新を読み解き、行動するための核としてきた。と同時に、オプティミズムに溢れた彼らの言葉こそが起業へと突き動かし、あらゆる困難を乗り越えさせる勇気を与え続けてくれたという。
そんなことを十数年続けるうちに、蔵書は一万五千冊を超え、ウェブ上から集めてきたデジタルデータも膨大な量あるといった。
これには一同びっくりした。こんな「風変わりな」勉強法をしてきた著者なんてはじめて聞いたからだ。とにかく知的形成の特異さにおいて半端でない。これはかなり面白いことになるぞと確信した。
「梅田さんの思考を形作った名言を軸に本をつくりませんか」と提案したところ、梅田さんは即座にOKしてくれた。「それなら、ぼくが本当にやる意味のある最高の企画だね」と。 |
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