あらすじ
東京の呉服屋の一人娘、積極性の中に潔癖さと正義感を垣間見せる結城麻子は、祖父が遺した着物で家業とは別にアンティーク着物の商売を始めた。 京都の葬儀社の社長令嬢、控えめな京美人の風情の桐谷千桜は、幼い頃、伯父の手によって誰にも言えない快楽を教えられ、それ以降、結婚生活においても一度も満足したことはなかった。 千桜の夫で婿養子の桐谷正隆は、葬儀になりそうなケースを紹介してもらうため、病院の婦長とも寝る野心家だった。 麻子の夫、小野田誠司はブライダル会社の営業担当で、妻の無意識の傲慢さや天真爛漫さに苦痛を覚えていた。 着物をきっかけに、二組の夫婦が交差する。 四人の共犯関係は次第に緊張を帯び、秘密の濃度は高まり、堕ちていく。
体の奥に眠る性的幻想や夫婦のありかたを端整な文章で情感豊かに描いた意欲作
村山由佳
1964年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。93年『天使の卵』で第6回小説すばる新人賞を受賞しデビューする。03年『星々の舟』で第129回直木賞、09年『ダブル・ファンタジー』で第22回柴田錬三郎賞、第16回島清恋愛文学賞、第4回中央公論文芸賞を受賞する。近著に『遥かなる水の音』『アダルト・エデュケーション』『放蕩記』など。