これは著者が荒野や悠也と同じ中学生の頃にノートに創作した全三部作の第一部。2008年3月放送のNHKの「トップランナー」番組内で一部が公開され話題をよびましたが、その第一話を全文掲載! 衝撃の内容が明らかに。
とおじょうじんぶつ
都道府県太 明るく軽い健康児。転校生にひとめぼれするが…
谷野洋次子 都道府県太を夢中にさせるがその正体は…
大江千里眼 都道府県太の秘密をにぎって以来、宿命のライバルとなる。彼もまた谷野洋次子を愛し…
川口浩 都道府県太の親友 いろいろ恋のアドバイスをするが…
加馬本音二郎 6年カバ組のたんにん。「あーホッペケペーホッペケペーが口ぐせ」
「えー 今日から ホッペケペー この6年カバ組みに転入してきたホッペケペー 谷野洋次子クンをしょうかいしよう。彼女は大阪から ホッペケ……」
2月31日、たんにんの加馬本音二郎先生のつれてきた転校生を見て、俺たちはがくぜんとした。つぶらな瞳 オレンジ色のほお、まがった口びる、愛らしいほほえみ、そしてカチューシャでとめた長い髪……まさに絶世の美女、マドンナ。ついでにいえば俺好みなのだ。
「えーっと 谷野クンの席は……」
俺、思わずとなりの席に緑川Qべえを机のひきだしにかくして、手をあげた。
「先生、俺のとなりが空いてます。」
「ん、そーか ホッペケペー じゃあ君、一番後ろの都道府県太のとなりにいきなさい」
かくして、俺のラ・ヴィアンローズ、つまりバラ色の人生が始まった。
「へええ県太、おまえ谷野洋次子にホレたのかよ」
その日の昼休み、親友の川口浩はびっくりして俺にきいた。
「あったりまえさ。さらさらの髪、長いまつげ……俺の心はバラだらけだよ」
「ふうん、じゃ、俺が協力してやろう。いいか、アタック戦法その1は“彼女の関心をこっちにむけさせることだ”」
浩のやつ、先生ぶって髪をかきあげ……ようとしたがはげだった。
「関心ってどうするのさ?」
「カッコいいとこ見せんだよ。おっ 今日は学級対抗じゃんけん大会じゃんか。ラッキーだぜ。」
「だけど俺、じゃんけん苦手なんだ。過去5回の選手権でも毎回げべ(※)で『あんたはすごい』賞をもらってんだぜ」(※げべ:最下位)
「……そいつはすげえ」
浩、しばらく考えてから言った。
「じゃあ、それを利用するんだ。今のうちに彼女にいっとくんだ。『今日の大会であんたはすごい賞をもらったら、君にいいたいことがあるんだ』カッコいいだろ。で、賞もらったら『スキだ!』できまりさ。ほら、いってきな」
俺は洋次子のところへ走った。
「洋次子俺の言葉をきいてくれっ!」
「?」
「今日のじゃんけん大会で『あんたはすごい賞』をもらったら、君にいいたい一言がある。俺はそれに、情熱のすべてをかけてるんだ。必ず、必ずきいてくれ!」
「がんばれよ県太。全部負けるんだ。わかってるか?」
「あーもうわかってる。」
そしてじゃんけん大会。俺は多少きんちょう気味で校庭にでた。チョキにするべきか、パーににするべきか……。
「次、カバ組都道府県太くん、対するはウマ組……」
ついに呼ばれた。俺は、“よし、チョキでいくぜ洋次子”とつぶやいて前にでた。
「じゃんけんポン!」
相手もチョキだ。よっし、今度はパーでいくぜ。
「あいこでひょー!」
うっ、むこうもパーだ。さすがウマ組。手ごわい。またパーでいくぜ。
「あいこできゅっ!」
……相手の手はこぶしだった。俺は初めてじゃんけんに勝ったのだ。
そして俺はじゃんけん大会に優勝した。
「バッカ野郎! なんで優勝なんだよ県太。こんなんならさいしょっから『ゆうしょうしたら……』っていっときゃよかったぜ。」
浩はプンプンしていった。
「ご、ごめん。まさか勝てるなんてさ……」
「もーいい。あたらしい方法考えよう。アタック作戦その2は“恋文”だ」
「コイブミ?」
「ラブレターのことだ。便せんあるか? ならノートでいい。1ページちぎろよ。よし俺のいうことをかけ。“俺は君が好きデス。なぜかというと君はかわいくてすてきで、俺の心をうばいさってしまいました。返事まってます。おとうふけんたより”」
「とうふじゃねえ。とどうふだっ!」
「こりゃ失礼。かいたか? じゃそれをおって……チューリップ型がいいな。よし放課後彼女の家のポストいれてこい。」
俺は、浩のいうとおり書いた恋文をもって彼女の家にむかった。彼女の家は白木づくりの小さなおうちで、これまた白いさくにきいろいポスト、いかにも少女しゅみな家だった。
俺はふるえた。もし彼女が「おとうふけんたくん」なんて読んだらどうしよう。返事をあけたら「おとうふくんへ」なんて……。これは都道府というりっぱな名前なのに……ああ、どうしよう。
やっと決心ができた。彼女が「おとうふ」とよんだら、俺は一生おとうふけんたでいい。彼女の愛をかちとるためなら、俺は喜んでとうふになる。
俺はうなずくと、ポストに近づいた。そのとき、俺の手をだれかがつかんだ。
「や、君は……」
「そう、君のいとこの大江千里眼だ。」
宿敵のライバル、大江千里眼がたっていた。そして彼の手になんとハートのシールのついたふうとう……いうまでもないラブレターがのっていたのだ!
「ま、まさか君も!」
「そう、洋次子さんは僕の心の光なのだよ。」
「くっ しょ、勝負だ千里眼!」
千里眼がニヤッと笑った。いやな予感。
「フッフッフ 僕の勝ちだよ都道府県太くん。僕は君の秘密をにぎっている」
ギクッ。
「なんだそれは?」